京都市乳腺外科「仁尾クリニック」
乳癌のリスク因子と予防因子

乳癌のリスク因子と予防因子

乳癌の危険因子

肥満は,閉経前と閉経後では異なり、閉経後では「確実」なリスク因子で,閉経前は「ほぼ確実」な予防因子である。さらに閉経後では,腹部肥満および成人後の体重増加が「ほぼ確実」なリスク因子とされています。

アルコール飲料の摂取により乳癌発症リスクが増加することは、欧米では 「ほぼ確実」とされていますが、日本ではデータ不足とされています。

喫煙により乳癌発症リスクが増加することは、欧米では「ほぼ確実」とされていますが、日本では、リスクが増加する可能性があるとされています。 欧米では受動喫煙により乳癌発症リスクが増加する可能性があるとされていますが、日本でのデータはありません。

脂肪摂取は乳癌の危険因子としては今のところ否定的ですが、日本でのデータはありません。

乳製品の摂取については、欧米の研究では脂肪摂取により乳癌発症リスクは減少する可能性が示唆されています。しかし、一部の研究でリスクが増加すると報告されており、結論は出ていません。日本でのデータはありません。

緑茶については、一部で乳癌リスクが減少するとの報告がありますが、日本での大規模研究では緑茶の摂取と乳癌の発症や予防とは関連なしとの結果でした。

大豆製品イソフラボンに関しては、日本人を対象とした研究で、みそ汁などの大豆食品,イソフラボンの摂取が乳癌発症リスクを減少させる可能性がある事が示されています。しかし、イソフラボンは女性ホルモン作用もあり、多量に摂取する事は逆に乳癌の発症リスクを増加させる可能性があり、通常の食事から摂取するイソフラボンの量では乳癌を抑制する可能性があるが、サプリメントによる大量摂取は逆に危険である可能性があるとされています。

出産に関しては、出産経験のない女性は,出産経験のある女性と比較して乳癌発症リスクが高いことは「確実」であり,また,初産年齢が低い女性ほど乳癌発症リスクが減少し,初産年齢が高い女性では乳癌発症リスクが増加することは「確実」であるとされています。乳癌の中でも、ホルモン受容体陽性乳癌のリスクが高いとされています。

授乳に関しては、授乳経験のない女性は,授乳経験のある女性と比較して乳癌発症リスクが増加することは「確実」とされ、授乳期間が長くなるほど乳癌発症リスクが減少し、ある研究では授乳期間5ヶ月ごとに乳癌発症リスクが2%低下すると報告されています。

運動に関しては、閉経後女性では運動が乳癌発症リスクを減少させることは「ほぼ確実」とされていますが、閉経前女性では運動が乳癌発症リスクを減少させるかどうかは明確ではありません。

更年期障害に対するホルモン補充療法、特に合成黄体ホルモンを用いたエストロゲン+黄体ホルモン併用療法では,長期投与により乳癌発症リスクを増加させることは「確実」とされ、乳癌の手術を受けた場合の再発のリスクをあげると報告されています。エストロゲン単独療法の長期使用によるリスク増加については結論が出ていません。

経口避妊薬や低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬の使用は、欧米のデータでは乳癌のリスクを増加させる可能性があるとされていますが、日本での大規模研究のデータはありません。

不妊治療の乳癌発症のデータについては、一定の結論が出ていません。使用する薬剤が多岐にわたるのと、年令や治療期間が個々のケースで大きく異なるためです。ヒト閉経期尿性ゴナドトロピンを用いた6カ月以上の卵巣刺激ではリスクが有意に増加するとの報告や,クロミフェンの長期投与や大量投与ではリスクが上昇する可能性が報告されています。体外受精—胚移植については、今のところ乳癌発症との関連性は認められていませんが、結論を出すのは時期尚早とされています

サプリメントに関しては、乳癌に限らず,癌予防のために食品サプリメントを摂取することは勧められていません。サプリメントに関する報告は一致した結論がありませんが、ある種の癌のリスクをあげる事が明らかになっているものもあり(ベータカロチン、ビタミンE)、少量(生理量:通常の食事などから摂取する量)では癌予防に効果のある栄養素も,大量(薬用量)では有害になったり,場合によっては癌の原因になることもあります。サプリメント摂取は食事からの栄養摂取が制限される状況下では許容されるが,薬品に近い扱いで大量に服用することは癌予防の観点からは推奨できません。